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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第26章 第二部・第六話【春咲く花】 略奪

 かつてはたとえ門番であろうと下々の者まで己が使用人の顔は憶えていたものだが、この十年の間に角倉家に仕える者たちの顔ぶれも違っていたとしても不思議ではない。
 ほどなく源五が慌てて飛んできた。
「殿」
 源五の皺深い顔がパッと輝き、深々と頭を下げる。
「漸くお戻りになって頂けましたか」
 だが、栄佐は短く否定した。
「戻ったわけではない。今日は母上にお訊ねしたいことがあって参ったのだ」

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