一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第26章 第二部・第六話【春咲く花】 略奪
瑞容院がキッとした様子で栄佐を見据えた。
「良い歳をされて、何を殿は血迷うたことを仰せになるのです。役者風情になるなぞとふざけた戯言と共に屋敷を飛び出されて十年、少しは大人になられたかと期待しておりましたが、相変わらずでございますこと。よほどその娘に骨抜きにされておしまいになったのですね。聞けばまだ十七、八の小娘だというではありませんか。その歳で男をそこまで籠絡するとは末恐ろしい。一体、どのような手練手管を閨で使うて殿を誑かしたのやら」
「良い歳をされて、何を殿は血迷うたことを仰せになるのです。役者風情になるなぞとふざけた戯言と共に屋敷を飛び出されて十年、少しは大人になられたかと期待しておりましたが、相変わらずでございますこと。よほどその娘に骨抜きにされておしまいになったのですね。聞けばまだ十七、八の小娘だというではありませんか。その歳で男をそこまで籠絡するとは末恐ろしい。一体、どのような手練手管を閨で使うて殿を誑かしたのやら」