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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第27章 第二部・第六話【春咲く花】 逢瀬

 女は何やら思い出すような眼つきで言い、一人で頷いた。
「それじゃア、今夜はそのお大尽がここに来なさるって寸法だね?」
 畳みかけると、女はこれにもすぐに頷いた。
「そうそう、だから忙しいんですよ、今夜は。三笠屋の旦那は豪気だから、いつも大盤振る舞い、あたしら下っ端の女中にまで酒肴をふるまってくれるんで、人気がありますよ」
「そいつは尚更結構なことじゃねえか。いや、そういうことなら、俺は涙を呑んで今夜は淋しい独り寝に甘んじるとしよう」

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