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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第27章 第二部・第六話【春咲く花】 逢瀬

 男の腰遣いが速くなり、女の上げる声がひときわ大きくなった。
―止めろ、止めてくれ。
 栄佐は叫び、そこで突如して覚醒が訪れた。
「何なんだ、あの夢は」
 考え事をしている中に、いつしかうたた寝してしまったようである。栄佐は忌々しげに言い棄て、身を起こした。狭い部屋はがらんとしていて、畳もすり切れ、天井にも雨だれの跡が滲みとなって幾つも残っている。

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