一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第27章 第二部・第六話【春咲く花】 逢瀬
だが、掃除は行き届いており、塵一つない。片隅に古びた小さな箪笥とその上方に枕絵らしい、全裸の男女が淫らに交わっている小さな絵が安物の額に入って掛けられているだけだ。
その淫らな絵が先刻見たばかりの忌まわしい夢と重なり、栄佐は思わず眼を背けた。ずっと眠っていたにしては軽やかな身のこなしで起き上がり、窓辺に寄って細く障子窓を開ける。どうやら往来に面している部屋のようで、覗き込んだ光景は昼前に眼にした宿前とさほど変わらなかった。
その淫らな絵が先刻見たばかりの忌まわしい夢と重なり、栄佐は思わず眼を背けた。ずっと眠っていたにしては軽やかな身のこなしで起き上がり、窓辺に寄って細く障子窓を開ける。どうやら往来に面している部屋のようで、覗き込んだ光景は昼前に眼にした宿前とさほど変わらなかった。