テキストサイズ

一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第27章 第二部・第六話【春咲く花】 逢瀬

 小紅は小さな息を吐き出し、心細げに細く開いたままの障子戸から空を見上げた。そろそろ陽が西に傾こうとしていた。いつもは見蕩れる美しい夕映えの空が今は滴る血潮を想わせ、小紅の不安を嫌が上にも煽った。
 西の空が真っ赤に染まっている。既に太陽は熟れすぎた果実を思わせるほどの紅く巨大な塊となり、今しも地平の向こうへと堕ちてゆく寸前だった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ