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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第27章 第二部・第六話【春咲く花】 逢瀬

 信右衛門は自ら先に褥に上がり、小紅を手招いた。
「こちらへおいで」
 むろん、従えるはずもない。と、信右衛門の細い眼が光った。この三十ほどの男、見た目はどこまでも柔和なお店の旦那だが、よくよく見れば、細い双眸はけして笑っていない。どころか、底光りのする蛇のような酷薄さを宿している。
「何をしているのだ。お前が言うことをきかねば、江戸の大切な男がどうなるか判らんのではないのか?」

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