テキストサイズ

一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第28章 第二部・第六話【春咲く花】 春咲く花

 笈馬は首を振り、重い息を吐く。
「物心ついた頃より、母親から将来は角倉家の当主たるにふさわしき人物になるようにと小難しき学問を詰め込まれ、気儘に遊ぶことさえ禁じられた。あの屋敷で栄之進の真の理解者だったのは恐らく用人の佐竹源五郎と乳母のときだけであったろうよ」
 笈馬が振り向き、小紅を見た。栄佐に似た瞳には若い甥を心底から思う大叔父の心情がありありと窺えた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ