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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第28章 第二部・第六話【春咲く花】 春咲く花

「栄之進が舞台役者なんぞに生きる道を見出そうとしたのも、儂には何となく理解できるでな。あれは現実の世界に己が居場所を見つけられなんだのだろう。だからこそ、舞台の上で見るひとときの夢に浸りたい、己れのすべてを賭けたいと思うたのであろうて」
 小紅は最早、返すべき言葉がなかった。幼かった栄佐の孤独と淋しさを思うと、いたたまれない想いがする。まるで自分のことのように辛かった。

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