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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第28章 第二部・第六話【春咲く花】 春咲く花

「雪割草―」
 小紅が精一杯咲いている可憐な花に見入っていると、笈馬が相変わらず背を向けたままで言うともなしに言った。
「雪割草は長い冬を堪え忍んで、春に美しい花を咲かせ人の眼を楽しませてくれる。小紅どの、今しばしの辛抱じゃ。いつまでも終わらぬ冬はなく、明けぬ夜はない。いずれ、そなたも晴れて角倉家に入る日が来ようぞ」
 後は静寂の漂う中、ただ笈馬が庭鋏を使う音が響くばかりの穏やかな早春の午後であった。

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