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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第28章 第二部・第六話【春咲く花】 春咲く花

「母上」
 仕方なく栄佐は母から少し距離を置いた場所に座った。何度か声をかけると、やっと今、その存在を認めでもしたかのように面を上げる。
「お越しでございましたか」
 判っていてやっているのだから、なかなか母もたいした役者である。だが、今日は些細なことに拘っている場合ではない。
 栄佐は端座した膝の上で両手を握りしめた。

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