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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち

 もう、駄目。
 小紅は絶望的な気持ちになった。そこまで節操も良心の欠片もない男だとは思わないし、思いたくもなかった。だが、過酷な現実を突きつけられた今、小紅の準平という男に対する気持ちは完全に冷え切った。恐らくもう、何をもってしても、この冷めた心が戻ることはない。
 小紅はそこで思考を切り替えた。今はあんな阿呆のことなど、どうでも良い。
 障子を静かに開けると、白髪の医者が振り返った。医者はそのまま部屋を出てきた。

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