テキストサイズ

一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第28章 第二部・第六話【春咲く花】 春咲く花

「済まぬ、爺。そなたの期待に応えられぬのは申し訳ないが、俺は小紅に辛い想いをさせてまで、この家に戻ろうとは思わぬ」
 栄佐は源五に頭を下げた。皺深い小さな面が絶望の色に染まるのをその時、栄佐は確かに見た。
 刹那。栄佐は何が起こったのか判らなかった。源五がすかさず刀を抜き、その腹に突き立てるのを彼はまるでその場面だけがゆっくりと流れゆく芝居の一幕のように茫然と見つめているしかなかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ