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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第28章 第二部・第六話【春咲く花】 春咲く花

 現に戻った時、既に源五は血の海に倒れ伏していた。
「爺っ、源五」
 栄佐は慌てて源五を抱き起こした。
「殿ォ、どうかこの爺の最期の願いをお聞き届け下さいますよう、ひらにお願い致しまする」
 源五の皺に埋もれた細い眼が力を失い、閉じた。その眼に溜まった涙が老いた貌に糸を引いて流れ落ち、栄佐は烈しく首を振った。

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