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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち

「見えるよ、私には見える。お前がまだ五つくらいだった頃、うちに遊びに来たときがあったね。あの時、肩車をして庭を歩いた。庭には桔梗が咲いていて、本当に夢のように綺麗だった。あれは本当に幸福な夢だったんだろうか」
 今、この瞬間、武平の瞳には幼い日の小紅が映じているに違いない。
「叔父さま。もう終わりだなんて言わないで。また一緒に、お庭を歩きましょう。桔梗の咲くのだって何度でも見られるわ」
 小紅の声は涙混じりだった。

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