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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち

 それが理由であった。難波屋はめきめきと知名度を上げてきているものの、それでもまだ、名の通った大店とはいえない。しかし、連歌の会、〝青柳〟の会長である生糸問屋の隠居がわざわざ難波屋を訪ねていって頼み込んだことで、漸く武平は入会したという経緯があった。
「あんなに良いお人がこんなに早く逝ってしまうなんて、世の中はあんまり無常すぎますよ」
 孫に付き添われ、杖をつきつき弔問に訪れた生糸問屋の隠居は泣いていた。

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