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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち

 一月も明日で十日になろうという夜、小紅は自室で一人、武平の袢纏をひろげていた。本当は野辺送りの折に武平の棺に入れようかと思っていたのだけれど、やはり、これは武平の形見として貰っておこうと大切に保管することにしたのである。
 袢纏にそっと顔を押し当てると、武平の匂いがした。たった十日ほどしか着て貰えなかったけれど、武平はとても歓んでくれた。

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