一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第1章 【残り菊~小紅と碧天~】 始まりは雨
仁助は婿養子であった。丁稚の時分から陰陽なたなく真面目に働いているところをおもとの父―つまり先代に認められ、早くから上州屋の次の主(あるじ)にと目されていたという。
父は小男で風采も上がらない。見た目でいえば、若い娘が好むような質ではなかったが、父の実直な人柄を母もまた好もしく思ったようで、やがて所帯を持った二人は似合いの夫婦となった。
父は先代の期待に応え、地道に商いに励み、上州屋は初めて上方にも出店を出すことになった。ところが、である。
父は小男で風采も上がらない。見た目でいえば、若い娘が好むような質ではなかったが、父の実直な人柄を母もまた好もしく思ったようで、やがて所帯を持った二人は似合いの夫婦となった。
父は先代の期待に応え、地道に商いに励み、上州屋は初めて上方にも出店を出すことになった。ところが、である。