一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち
「お願い!」
両手を合わせて頼むと、お琴は意を決したたように頷いた。
「お行きなさいませ。そして、もう二度と、こに戻ってきてはなりませんよ」
お琴は庭に面した障子戸を素早く開け、既に漆黒の闇に塗り込められた庭先を指した。
「あちらに向かって走って下さい。庭を囲っている築地塀があるのはご存じですね。寒椿の茂みの後ろに人がひとり通れるだけの穴が空いています。多分、知る者は少ないはず。そこから裏路地に出られますので」
両手を合わせて頼むと、お琴は意を決したたように頷いた。
「お行きなさいませ。そして、もう二度と、こに戻ってきてはなりませんよ」
お琴は庭に面した障子戸を素早く開け、既に漆黒の闇に塗り込められた庭先を指した。
「あちらに向かって走って下さい。庭を囲っている築地塀があるのはご存じですね。寒椿の茂みの後ろに人がひとり通れるだけの穴が空いています。多分、知る者は少ないはず。そこから裏路地に出られますので」