
一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第1章 【残り菊~小紅と碧天~】 始まりは雨
ならばかなりの物音がしたはずなのに、奉公人は誰一人として目覚めなかった。何と父はご丁寧に小紅だけでなく、番頭や他の奉公人にまで甘酒をふるまい、その中に睡眠薬を仕込ませていたようである。
嘉一は口には出さなかったけれど、いつになく深い眠りがその酒のせいだったと気づいているようであった。
甘酒を皆にふるまい、皆が眠り薬で眠っている間に、父はまんまと金と財宝を持ち出し、佐津と逃げだのだ。まったく大店の主としてはあるまじきふるまいであった。
嘉一は口には出さなかったけれど、いつになく深い眠りがその酒のせいだったと気づいているようであった。
甘酒を皆にふるまい、皆が眠り薬で眠っている間に、父はまんまと金と財宝を持ち出し、佐津と逃げだのだ。まったく大店の主としてはあるまじきふるまいであった。
