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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第4章 【残り菊~小紅と碧天~】 流星

「あー、美味かった。ご馳走さん」
 言ってから、小紅をまじまじと見つめた。
「お前にも夢があるのか?」
「私、いっぱしのお針子になりたいのよ」
 そこで小紅は先日、出来上がったばかりの着物を呉服問屋に届けたのだと話し始めた。お紀代の父の知り合いだというのは日本橋の京屋である。京屋といえば、江戸でも指折りの老舗であり大店だ。しかも主の市兵衛は〝氷〟と異名を取るほどの辣腕商人だ。

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