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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第4章 【残り菊~小紅と碧天~】 流星

 昨日、小紅は縫い上げた着物を持ち、京屋を訪ねた。御用聞きや客でない者は勝手口から出入りするのが常識である。勝手口で訪(おとな)いを告げると女中が出てきて、市兵衛の女房お彩(さい)に取り次いでくれた。
 お彩は四十手前の品の良い内儀であった。美貌で知られる市兵衛の妻にふさわしく、ついぞ見かけないほどの美人である。小紅は市兵衛を知らないけれど、美しいと評判の市兵衛と並べば似合いの夫婦だろう。

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