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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第5章 【残り菊~小紅と碧天~】 いちばん幸せな日

 江戸でも屈指の大店の嫁に望まれるなんて、もうこの先、二度とはない幸運だとは判っていた。
 しかし、この時、何故か小紅は市兵衛に〝はい〟とは言えなかった。せめて礼儀上でも〝考えてみます〟くらいは言うべきであったのだろうが、結局、彼女は辞退してしまった。
―どなたかお好きな方でもいらっしゃるの?
 お彩が脇から問うのに、小紅は思わず頷いたのだ。

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