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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第5章 【残り菊~小紅と碧天~】 いちばん幸せな日

―それは残念だわね。お前さま、もう他に決めたお人がいるというのに、これ以上、無理強いはできないわ。
 お彩が言うと、市兵衛も鷹揚に頷いた。
―そうだな、人の心はどれだけの金を積んでもけして動かせはしない。私たちは身をもって、それを学んだからなぁ。
 微笑み交わす市兵衛とお彩の結婚は今も語りぐさになっているほど、熱烈な恋愛結婚だったという。この穏やかな夫婦にもかつては炎のように烈しく互いを求め合った若かりし頃があったのだ。

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