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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い

 多額の借金だけを残して女と逃げた父を恨んだこともあった。どうせ金がなくなれば女に見限られ棄てられるに決まっているのに、そんなことも判らないのかと情けなく、愚かな父を持った身の不運を嘆いた。
 当座は女に棄てられて路頭に迷って野垂れ死んでも良い気味だと思ったけれど、今となっては薄情な父親でもこの世でただ一人の肉親なのだと思えば、どこかで生きていて欲しいと願ってしまう。

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