テキストサイズ

一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い

 小紅の物想いが醒めたのは、水鳥たちが騒がしい羽音を響かせて飛び立った直後だった。
 涙を拭いて息継坂を最後まで降り茶店の前を通りかかったときのことである。
「小紅さん」
 ふいに声をかけられて、小紅はピクリと身を震わせた。
 京屋市兵衛が茶店の前の椅子に座り、こちらに向かって手を振っていた。
「済みません、また愕かせてしまいましたね」
 小紅は胸をなで下ろして笑顔になった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ