一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い
「いつ来るのか判らないものだから、この間から、この時間はいつもここにいました。やっと逢えて良かった」
京屋ほどの大店の主人がこんな場所で昼日中から油を売っていても良いものかと他人事ながら心配になる。が、考えようによっては、それほどの大身代だから、主が少しくらいいなくても番頭や手代だけで何とでもなるといえるのかもしれない。
「あの―、毎日、ここに来ていたのですか?」
そう、と、また市兵衛は頷いた。
京屋ほどの大店の主人がこんな場所で昼日中から油を売っていても良いものかと他人事ながら心配になる。が、考えようによっては、それほどの大身代だから、主が少しくらいいなくても番頭や手代だけで何とでもなるといえるのかもしれない。
「あの―、毎日、ここに来ていたのですか?」
そう、と、また市兵衛は頷いた。