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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い

 ふと先日はどうだったのだろうかと考え、幾ら何でも市兵衛がわざわざ自分のような一お針子を随明寺で待っていたとは考えられないと思い直す。
 と、聡い彼はすぐに小紅の想いを見抜いたらしい。笑いながら言った。
「残念ながら、先日は待っていたわけではありません。第一、あなたがあの日、随明寺にお参りすることを私がどうやって知るというのですか? 本当に偶然、絵馬堂前であなたに出逢ったのです。私もちょっと恋愛のことでお願いしたいことがありましてね」

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