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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い

「先ほどの話だけど」
 市兵衛の言葉が随分と親しげなものになっていたが、考えてみれば、大店の主人とはいえ、市兵衛はまだ二十一の若さだ。栄佐と自分が離れているより年齢差はないのである。特にそのことに不自然さも馴れ馴れしいとも考えなかった。
「小紅さんは本当にそう思う?」
 いきなり話が飛んで、小紅は戸惑った。
「それは、どういう意味でしょうか? 申し訳ないのですが、おっしゃる意味が判りません」

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