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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第1章 【残り菊~小紅と碧天~】 始まりは雨

 〝あのとき〟というのが五年前の夏の日だとはすぐに判った。
「望むと望まざるに拘わらず、お前は俺のものになる運命なんだ、良い加減に観念しな。小紅ちゃん」
 互いの吐息の音までもが聞こえるほど―唇と唇が触れ合う手前まで近づき、準平は止まった。囁きにも似た言葉が熱い淫らな熱と共に小紅に注ぎ込まれる。
 準平が喋る度に、吐息が小紅の唇を掠めて、思わず肌が粟立った。

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