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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い

 神さまが頼みを聞いてくれるかどうかまでは判らないが、こうして縋ることで一時的にでも気が楽になるのならば、それだけで神仏のありがたみはある―見方によれば随分と罰当たりなことを考えながら、栄佐は元来た道を引き返していった。
 随明寺の境内は滅法広い。子どもの時分、乳母(めのと)に連れられて随明寺に来たことがある。あれは丁度、雪の降る季節だった。三重ノ塔の見える辺りまで来て、栄佐は立ち止まり眼を閉じた。

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