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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い

 相も変わらず艶やかな色合いが秋の陽差しに眩しく照り映えている。今の卑怯な自分にはその気高き美しい姿を見ることもできないような気がして、彼は塔から眼を背けて帰り道を急いだ。
 本堂の前を通り、長くて急勾配の石段を駆け足で降りる。すべてを降りきった時、ふと聞き憶えのある声がどこかから聞こえたような気がして、栄佐は周囲を見回した。
「それは本当?」
「本当です」

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