テキストサイズ

一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い

 自分はかつて優しいおたつを泣かせ、爺を哀しませ、そして今また小紅を泣かせている。角倉栄之進であった頃も、ただの栄佐になった今も、身勝手な生き方しかできない弱くて愚かなただの男にすぎない。
 束の間思い出した優しい乳母との雪の記憶は、しまいには爺を振り切って屋敷を出たときの哀しい想い出に変わった。栄佐は暗澹とした気持ちで重い息を吐き出し、もう一度三重ノ塔を見上げた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ