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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第1章 【残り菊~小紅と碧天~】 始まりは雨

 先刻、武平に言われて居室まで小紅を送り届けるはずだった女中である。あのときはかなりの年配かと思ったけれど、陽の下でよくよく見ると、まだ四十そこそこといったところだ。乳母のおさわとほぼ同じ年頃だろう。
 優しげな眼許が乳母を彷彿とさせ、小紅はつい大粒の涙を流してしまった。
「若旦那さまのことはすべて旦那さまにご報告しておきましたから、何のご心配も要りませんですよ」

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