
一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第1章 【残り菊~小紅と碧天~】 始まりは雨
「そうなんですよ。やはり、長年連れ添われた奥さまをお亡くしになってから、どっと老け込まれましたねぇ。こんなことを申し上げちゃ何ですが、お内儀(かみ)さんも若旦那さまほどではありませんけど、私ども奉公人たちの間では評判がよろしくなかったんですよ。感情の起伏の激しくて、やたらと丁稚を怒鳴り散らすのも母子そっくり。それでも、旦那さまは奥さまをそれはもう大切にされていましたからね」
放っておけば延々続きそうなお琴のお喋りを小紅はやんわりと遮った。
放っておけば延々続きそうなお琴のお喋りを小紅はやんわりと遮った。
