一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第10章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 心の嵐
小紅は幾度も市兵衛に頭を下げて京屋を辞した。ちなみに、小紅が市兵衛を見たのはこれが最後になった。市兵衛は翌年、少年期を過ごした大坂の親類の店の方へと移っていったからである。
大坂の店は京屋とは親類になり、徳太郎といっていた市兵衛に商いのいろはを教え、いっぱしの商人に育てたのは先代市兵衛の最初の女房おいちの従弟に当たる男だった。その主人徳右衛門が急死し、その後には出戻りの二十八になる娘一人が残された。
大坂の店は京屋とは親類になり、徳太郎といっていた市兵衛に商いのいろはを教え、いっぱしの商人に育てたのは先代市兵衛の最初の女房おいちの従弟に当たる男だった。その主人徳右衛門が急死し、その後には出戻りの二十八になる娘一人が残された。