一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第10章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 心の嵐
市兵衛は育ての父ともいえる先代に恩義を感じていたため、一つの決断を下した。京屋の主の座を弟の清治郎に譲り、自分が大坂の店を継ぐことにしたのである。
市兵衛は名を元の徳太郎に戻し、大坂の打出屋の新しい主人となり、後に出戻りだった七つ年上の先代の娘と所帯を持っている。当時、六つと五つだった連れ子の娘たちの他に、女房との間には三男一女に恵まれた。義理の娘たちをも実子と変わらず大切に育てたといわれている。
市兵衛は名を元の徳太郎に戻し、大坂の打出屋の新しい主人となり、後に出戻りだった七つ年上の先代の娘と所帯を持っている。当時、六つと五つだった連れ子の娘たちの他に、女房との間には三男一女に恵まれた。義理の娘たちをも実子と変わらず大切に育てたといわれている。