テキストサイズ

一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第1章 【残り菊~小紅と碧天~】 始まりは雨

 元々の美貌が豪奢な花魁の打ち掛けや漆黒の髪を飾る数々の笄(こうがい)にいささかも引けを取っていない。まったく男だとは信じられないような、滴るような色香溢れんばかりの佳人ではないか。これだけの美形であれば、個人的に熱心な崇拝者がつくというのも頷ける。
「何だか女としては複雑な心境よね」
 小紅は笑った。
「ひとめ見て男だと言われても、咄嗟には信じられない。私なんかより、よっぽど綺麗だわ」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ