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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第1章 【残り菊~小紅と碧天~】 始まりは雨

 大部屋役者なのに、錦絵が出回っているというのも確かに妙な話ではある。それだけ個人的な贔屓筋が多いということなのか。もしかしたら、芝居の才能はあまりないのかもしれない。
 小紅は更にその浮世絵を見つめた。切れ長の眼許はすっとつり上がり、ほのかに眦に紅を差している様が凄く色っぽい。これは花魁(おいらん)のなりをしているが、桜花のような唇、整った鼻筋、棗(なつめ)のような瞳、何一つ取っても文句のない美貌である。

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