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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第12章 第一部第三話【月戀桜~つきこいざくら~】 十六夜の月

「昨日の夜、栄佐さん、どこかに出かけたでしょ。それで朝まで戻らなかった、違う?」
 小紅はどちらかといえば耳聡く敏感な方だ。暁方になって、隣の栄佐の住まいで物音がしたのも気がついていた。つまり、栄佐はほぼ一晩中、出かけていて、どこか別の場所で夜を過ごしたということになる。
「―へえ、悋気かい」
 やや経って栄佐の口から洩れたのは到底、予想していなかった科白だった。固唾を呑んで彼の応えを待っていた小紅は愕然とした。
「何ですって?」

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