恋してキスして抱きしめて
第20章 ただ、想うだけで
………小さい頃は、何度もこうして抱きしめてもらっていて
その度に、あたしはママのいない寂しさを忘れる事が出来た。
お兄ちゃんの体は温かくて、今もあの頃のように心が落ち着いてくる。
だけど……
「……お兄ちゃん」
「……ん?」
「やっぱり、違うね」
「何が?」
「ユーリさんに抱きしめてもらう方が、気持ちいい」
「…………」
正直に自分の気持ちを口にすると
「………あっそ」
お兄ちゃんはムスッとした表情で、あたしから体を離して
お尻のポケットから、煙草とライターを取り出した。
リビングは禁煙だって、帰ってくる度にいつもパパに怒られていたけど
お兄ちゃんの肩がガックリ下がったように見えたから
あたしは何も言わずに、そのユラユラと上がる煙を見つめた。
………ユーリさんと、同じ銘柄の煙草だった。