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恋してキスして抱きしめて

第6章 恋愛ビギナー

反応の無い千夏の方へ振り向くと


ビニールシートの上に正座をした彼女は、瞬きひとつせず花火を見つめていた。


その丸い瞳に光の粒が反射して、キラキラと輝いている。



「………はは、真剣」



って俺が呟いても気付かない。


も~~どれだけ感激しちゃってんのよ?


周りがこれだけ騒いで、携帯やカメラを向けている中


千夏だけは、まるでその瞳に焼き付けるように、微動だにせず夜空を見上げていた。



「…………」



千夏と同じ方向へ目線を戻す。


学生時代、仲間と祭りに行ったときは大抵酔っ払っていて


こんな風に、静かに眺めたことなんて無かったな。




最新テクノロジーを取り入れ、音楽に合わせて広がる彩り。


観客を飽きさせない見事な光の演出に、周りのボルテージは上がってるはずなのに


その喧騒は、俺の耳からだんだんと小さくなっていって


………過去の一場面が、くっきりと脳裏に浮かんでくる。




……そうだ……一度だけ……


場所は違うけど


あの夏の夜も、こうして花火を見にきたんだ。




だけど


どんな花火だったか、思い出せないのは………

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