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ずっと君を愛してる

第12章 仲間との距離

「なんか飲む?」
「うん。瀬川くん、何飲んでた?」
「ハイボール」
「じゃ、それ飲みたい」
「わかった」

ぼくとみゆきは白浜の新しい彼女の話で盛り上がってるみんなを眺めながら、二杯目を注文した。

月イチ会はいつもこの居酒屋で集まっている。さぞかし騒がしい大人だと思われていることだろう。広くもなく狭くもなく、料理にこだわりがある風でもなく、特別売りがあるわけでもなさそうだが基本的なアルコールは揃っていて結構落ち着ける居酒屋だ。だから何となくいつもここに決まる。

「瀬川くん、雑誌の写真撮ってるの?」
「うん。先月からね」
「どんな写真?」
「この間は料理雑誌だったよ。料理の先生が作ったものを撮るんだけど、結構難しかった」
「へぇ・・・なんていう雑誌?」
「何だっけ・・・『ハローキッチン』だったかな」
「あ、知ってる!買ったことあるよ」
「そうなんだ?若い主婦向けらしいね」
「私も主婦になりたいなぁ」

みゆきが頬づえをついて、つぶやくように言った。

「みゆきはずっとバリバリ仕事するのが似合うけどな」
「そんなことないよ。結婚願望は人一倍強いつもり」
「大学のときからそうだったよね」
「…私の幸せは、誰が持ってるんだろ」

そう言えば、昔みゆきに言われたことがあった。『瀬川くんはその手にひとりぶんの幸せを持ってる』と。
この手に…静流の、しあわせなんだろうか。それともまだ見ぬ誰かの幸せか。

「瀬川くん、いま誰かの幸せを考えたでしょ」
「いや、うん…」
「私の、だったらいいのに。そこにある幸せ。」
「え?」

みゆきは、ぼくの手のひらを指して言った。

「こんなに大きな手なら、すごく幸せになれそう」
「…きっとどこかにいるよ。みゆきを幸せにしてくれる人。」

ぼくはそう言うことしかできなかった。かつてみゆきはぼくを想ってくれていた。その時ぼくは静流を想っていて、静流はぼくの元からいなくなった。誰もがうまくいかない恋にもがいていた。
もう、ずっと前のことだ。

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