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ずっと君を愛してる

第14章 思い出を断ち切って

カーテン越しに射すやわらかい光がまぶしくて目が覚めた。
春だ…。
ふと、春が来たような気がした。
それだけで自分の中で気分が高揚するのを感じた。自然界と同じサイクル。暖かくなると、何かを始めたくなる。

あれからぼくは何度も無気力な春をやり過ごした。

ニューヨークから帰国したぼくは、何度も静流に手紙を書いた。どれだけぼくが静流に会えてうれしかったか、どれだけこの手の中に残っている静流の温かみを感じているか、どれだけ静流を愛しているか…。
あれはいつのことだろう。
ある日郵便受けを開けると、見慣れた文字の書かれた封筒が配達されていた。…紛れもなく、ぼくの字。配達先不明の、味気ないスタンプが押された封筒が一通。
ぼくは、いつかこんな日が来ると知っていた。
静流は背中に生えた羽で、好きな場所に飛んでいく。飛び続ける途中にぼくと出会った。それだけなんだ。また、ここに戻ってくるかもしれない。でも、戻ってこないかもしれない。
その封筒をくしゃくしゃに丸めて握り潰した。
もう、静流のことは忘れよう。そう決めた。あんなに愛した。あんなに笑った。ぼくの世界は、静流でいっぱいだった。でもどうにもならないこともある。ぼくだけが思っていても。

静流のことを思い出すのは、これで最後にしよう。
やっと、そう思える時が来たのだから。
ぼくはカーテンを開けて出掛ける準備を始めた。

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