テキストサイズ

ずっと君を愛してる

第16章 迷い

カフェからの帰り道、いつもよりゆっくり歩いてアパルトマンに戻った。部屋に続く階段のちいさな窓からパリの街を眺めると、遠くに見えるエッフェル塔に明かりがついた。きれいだな。でもそれ以外の感情が沸き起こってこない。昔はもっと、単純に感動できたような気がする。その感動でシャッターを切り、ここまで来たはずなのに。
忙しさを理由に撮らなかったんじゃない。ぼくはつまらない人間になってしまったのかもしれない。

撮りたいのは、何だろう。
ここまで来たのに。

ベルクールは若い頃、戦場カメラマンだったらしい。いくつか見たものは「よくある」戦場写真で、それは本人も言っていたことだ。戦場はどこも同じで、誰が何を撮っても自己満足にしかならない。色がなくて生きていることがいやになる、と。
パリに戻って雑誌の仕事を中心にするようになってようやく自分の中の血が通い始めた気がする、と。
ぼくが初めてカメラを手にしたのは13歳の頃だった。あまり人と関わりたがらないぼくに、父親が教えてくれた。父はカメラマンでも何でもないけれど、子どもの成長を記録するためのマニュアルカメラがあった。そのカメラで最初は手当たり次第、そのうち友達が野球部の試合を撮ってほしいと言い出し、それを聞いた先生が文化祭や体育祭でカメラマンをしろと言った。みんなが自分の勇姿を写真に収めてほしくて、次々に声をかけてきた。
ぼくはファインダー越しに人とかかわることを覚え、それなら自分にもできると思ったものだ。
できあがった写真を見ながら、みんながその場面について話すときの笑顔が好きだった。構図も色彩も気にせず、ただその瞬間を切り取っただけの写真。過ぎた時間を思うその真ん中に、ぼくが撮った写真がある。そのことがただ、うれしかった。

…撮りたいのは、何だろう。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ