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ずっと君を愛してる

第7章 ぬくもり

やっと唇を離したぼくたちは、急にはずかしくなってうつむいてしまった。

「…誠人は…どうしてたの?卒業してから」
「出版社に就職したんだ。小さいけどね。そこで写真を撮ったり、文章を書いたりしてるよ」
「カメラマン?!すごい!」
「まだまだ、これからだよ。それに、雑誌に載るような写真を撮らせてもらえたのは最近になってからだし。」
「そっかー…誠人も頑張ったんだね…」
「静流も。みゆきも、関口もみんなね。」
「懐かしいね…」

静流は古いアパートメントを改装したそう広くはない部屋に住んでいた。
壁にたくさんの写真を貼り、畳を敷いた部分にはビーンズクッションが直置きしてある。東京のぼくの部屋にも似ている。
何のモチーフかわからないぬいぐるみが、アンティーク風の椅子に座っていたり、静流らしいと言えばそうだ。

「このクッション、同じでしょ?」
「ほんとだ」
「ここに、こうやって」
静流はビーンズクッションに丸くなって寝転がった。脚がかなりはみ出している。
「誠人はソファに寝転がって」
「こう?」
「そう!ほら、誠人の部屋ではいつもこの距離だったよね?」
「そうだね。ぼくはいつも静流が眠るのを少し上から見てた」

それから静流が撮った写真を見ながら色んなことを話した。空白の2年を埋めるように。会話が途切れるとまたキスをした。

「あ…」

徐々に会話よりもキスのほうが長くなってきたころ、静流はぼくに抱き締められて小さく声を漏らした。
それは今まで聞いたことのない彼女らしくない声で、ぼくの中で何かが音をたてて崩れた。静流の声は、その何かを打ち砕くには十分だった。

ぼくたちは抱き合った。
ちいさな明かりの下で、お互いを確かめあった。大切すぎて、踏み出せずにいたあの頃からずっと、ぼくは静流とこうしたかったんだ。
何も考えなかった。考えられなかった。
痛みに耐える表情はとてもいとおしくて、何度も何度も口づけた。

外は雪が降り積もるというのに、ぼくたちにそんな寒さは無縁だった。

「誠人は体温が高いね…あったかい」

いつの間にかふたりは眠りにおちた。
ここ何年間かで、一番やすらかな眠りだった。

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