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そばにいて、そしてキスをして

第2章 変化

今日は暑かったからか、水分の多い野菜がよく売れた。今が旬のプリンスメロンは午前中に品切れになった。
ふと、バッグの中からのぞく瓶が視界に入り、取り出した。今朝倉沢にもらったものだ。淡いピンク色をしたジャムを眺めてみる。真緒は蓋を開けて人差し指で少しすくってなめてみた。優しい甘みが口の中に広がった。真緒の好みの甘さだ。

「お疲れ様でーす」

そろそろ店を閉めようとした時、午前中で帰った洋輔が、顔を出した。

「あれ、どうしたの」
「このへんに、本忘れてませんでした?あ、これこれ」

洋輔は本を手にして、真緒の手元を覗き込んだ。

「倉沢ジャム」
「あ、うん…」
「そうだ。なんでジャムの交換に至ったのか聞いてなかった」

思い出したように洋輔がいい、椅子を引いて真緒の向かいに座った。

「大したことないよ。いちじく、配達したでしょ。で、ジャム作ったからお裾分け。それだけよ」
「それだけねぇ…」

洋輔はジャムの瓶を手にとった。

「松田さん、9月から研究留学するみたいですよ。真緒さん、知ってました?」
「留学?どこに?」
「自分で聞いたらどうですか。真緒さん、松田さんのこと放りすぎですよ」

洋輔は真緒と目を合わせずに言った。
そんなこと、わかってる。
でもこれが二人のスタイルだと納得して…

「真緒さん」
「ん?」
「けど、松田さんも真緒さんに対してちょっと感情が薄いっていうか…」
「え?」

今度はちゃんと真緒の方を見て言った。

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