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そばにいて、そしてキスをして

第3章 始まり

翌朝、真緒は早起きしてりんごとイベリコ豚を使ったキッシュを焼いた。昨夜仕込んだくるみとレーズンのパンも焼き上がった。
今夜、倉沢が帰国するという。
チーズのお礼に夕食がわりになればと思ったのだ。
何だか食べ物の交換ばかりしている。もしかしたら、倉沢は自分で料理をするのかもしれない。そうでなければ、男性が八百屋など覗くだろうか。
真緒はここ数日続いている、何となく浮かれた気分のまま店に出勤した。

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昨夜遅くに、洋輔からメールが届いた。
新潟で行われた学会に参加するため松田に同行したら、名古屋大学のN教授に誘われて研究室に行くことになったので、明日のバイトを休むという内容だった。もちろん松田もだ。およそ松田が強引に誘ったに違いない。メールには、新潟のどこかで資料を読む松田の横顔が添付されていた。洋輔なりの気遣いである。
そういう訳で今日は、真緒ひとりで仕入れと店の切り盛りをし、配達のために昼間1時間店を閉めたほどだ。おかげで昼食をとりそこねた。
夜7時に閉店し、溜まった雑用にとりかかった。洋輔のいない日に限って忙しいのだ。ようやく一段落ついたのは8時半だった。
その時、半分閉めたシャッターの下から倉沢がのぞいた。

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