そばにいて、そしてキスをして
第3章 始まり
「こんばんは。遅くなってすみません」
長身を折り曲げて、倉沢が入ってきた。数日前に見た出で立ちのままの倉沢が申し訳なさそうに笑った。
「まだお仕事中でしたか」
倉沢はジャケットを脱いで、スーツケースの持ち手にかけた。
「今日バイトの子が休みで、ちょっと忙しかったんです。あ、でももう終わりますから、ちょっと待っていただけますか」
そう言って真緒は倉沢の分のコーヒーを用意した。倉沢は店を見渡している。
「野菜や果物がないと、随分さっぱりしてますね」
「そうですね。野菜や果物の色は本当にキレイですから」
真緒が仕事をしていたテーブルにコーヒーを置いて勧めると、倉沢はひとくち飲んで手を止めた。
「そうだ。チーズ。ゴーダです」
倉沢は持っていた、意外と大きな包みを真緒に渡した。開けると、丸くてむかし観たスイスのアニメに出てくるあのチーズだった。
「わ、ハイジのチーズだ」
真緒は思わず声をあげた。その言葉につられて倉沢も笑った。
「僕も同じことを思った」
意外と重いそのチーズを置いて、店の冷蔵庫に入れてあったキッシュと紙袋に包んだパンを倉沢に手渡した。
「お夕飯まだでしたら、どうぞ。チーズのお礼です」
倉沢は驚いたように、真緒を見た。
「そんな、チーズは頂き物なのにな。あ、そうだ。夕飯まだでしたらご一緒にどうですか。うちに美味いワインがあるんです。チーズも切りましょう」
真緒は嬉しい提案に即座に乗った。
しかし倉沢は思い直したように言った。
「いや、また男ひとりの住まいに軽々しくお誘いしてしまって…」
「大丈夫です。変なことされたら走って逃げますから。ランニングで結構鍛えてますよ」
真緒は慌てて帰り支度を始めた。
長身を折り曲げて、倉沢が入ってきた。数日前に見た出で立ちのままの倉沢が申し訳なさそうに笑った。
「まだお仕事中でしたか」
倉沢はジャケットを脱いで、スーツケースの持ち手にかけた。
「今日バイトの子が休みで、ちょっと忙しかったんです。あ、でももう終わりますから、ちょっと待っていただけますか」
そう言って真緒は倉沢の分のコーヒーを用意した。倉沢は店を見渡している。
「野菜や果物がないと、随分さっぱりしてますね」
「そうですね。野菜や果物の色は本当にキレイですから」
真緒が仕事をしていたテーブルにコーヒーを置いて勧めると、倉沢はひとくち飲んで手を止めた。
「そうだ。チーズ。ゴーダです」
倉沢は持っていた、意外と大きな包みを真緒に渡した。開けると、丸くてむかし観たスイスのアニメに出てくるあのチーズだった。
「わ、ハイジのチーズだ」
真緒は思わず声をあげた。その言葉につられて倉沢も笑った。
「僕も同じことを思った」
意外と重いそのチーズを置いて、店の冷蔵庫に入れてあったキッシュと紙袋に包んだパンを倉沢に手渡した。
「お夕飯まだでしたら、どうぞ。チーズのお礼です」
倉沢は驚いたように、真緒を見た。
「そんな、チーズは頂き物なのにな。あ、そうだ。夕飯まだでしたらご一緒にどうですか。うちに美味いワインがあるんです。チーズも切りましょう」
真緒は嬉しい提案に即座に乗った。
しかし倉沢は思い直したように言った。
「いや、また男ひとりの住まいに軽々しくお誘いしてしまって…」
「大丈夫です。変なことされたら走って逃げますから。ランニングで結構鍛えてますよ」
真緒は慌てて帰り支度を始めた。