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そばにいて、そしてキスをして

第3章 始まり

倉沢との夕食は単純に楽しかった。やはり彼も料理が好きで、余程仕事が忙しくない限り自分で作るという。幼い頃から海外暮らしで洋食が得意らしい。パンも大好きで、ルバーブジャムと共に手渡したライ麦パンや、このくるみパンも大絶賛だった。

「これ、私が焼いたんです」

ワインを飲んで少し気分が良くなっていた真緒が言うと、倉沢は驚いて「パリのブランジュリみたいだ」と言った。
キッシュもパンも、ほとんど平らげたころ倉沢がつぶやいた。

「こんな楽しい食事は久しぶりだな」

真緒も、同じことを思っていた。仕事がある日は疲れて食事も手を抜き気味だしもちろん食べるのはひとりだ。たまに松田を誘っても、研究の話がほとんどで、真緒もわかる話なので面白いのには違いないが、楽しいとは程遠かった。

「私も。…楽しかった」

しみじみと言って顔を上げると、優しい表情で真緒を見つめる倉沢の視線とぶつかった。真緒は思わず目を逸らした。

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